ですが、分析だけでは併願表は完成しません。データを「我が家の併願表」に変換する作業は、家庭が自力でやるしかない領域です。GW(4/29〜5/6)はこの作業に最適のタイミング ── 祝日と週末が連続し、合不合のベスト10データも出揃い、5月の学校説明会・塾面談を前に「何を聞くべきか」が明確になります。
本コラムでは、GW中の合計3〜4時間で「我が家の併願表たたき台」を作る5ステップを公開します。完成版ではなく「たたき台」 ── 夏以降の合不合データ更新や学校説明会の感触で何度も書き直す、その骨格を作るのが目的です。
そして、本コラムが一貫して大切にする原則を最初にお伝えします。「中学受験の主役は子どもです」。親が併願表を一人で決めれば確かに効率的ですが、自立心のない6年間につながり、6年後の大学受験で本人が選べなくなります。親の役割はファシリテーター ── 選択肢を整理し、質問で考えを引き出し、事実情報を下調べし、子どもが選んだものを尊重する。各Stepで「誰が考え、誰が決めるか」を明示しているのは、この役割分担を崩さないためです。
1. なぜ「GW中」「たたき台」なのか
多くのご家庭で「併願表を本気で作るのは秋から」という認識があります。それは間違いではありません。9月以降の合不合判定テスト(第3回〜)で持ち偏差値が定まり、学校説明会の参加経験が積み上がり、過去問との相性が見えてくる ── 確定版を作れるのは確かに秋以降です。
ただし、「たたき台」を作るのと「確定版」を作るのは別の作業です。たたき台が秋まで存在しないと、夏までの行動指針が曖昧になります。具体的には次の3つで困ります。
・5月以降の学校説明会で「何を確認すべきか」が定まらない。説明会の質問は「我が家の併願候補に入っている前提」で組み立てると深くなります。
・夏期講習の志望校別講座を選びにくい。受講校を絞るには、たたき台レベルでも志望校群が見えていないと判断できません。
・夫婦間・親子間の認識合わせが進まない。「うちはどういう方針で受験するんだっけ?」を口頭でなく紙で共有しない限り、夏以降にズレが顕在化します。
そして、GWは作業時間が確保しやすい唯一のタイミングです。4月の四谷大塚ベスト10データが出揃った直後でもあり、外部情報も最新が手に入ります。完璧を目指さず「3〜4時間で骨格を作る」と決めて、家族で半日確保しましょう。
2. 前提:ベスト10併願パターンは「骨格の参考」── そのまま使わない
本論に入る前に、ベスト10併願パターンの正しい使い方を確認します。前回のコラムでも触れた通り、四谷大塚が公表した併願データは「同じ学校を第一志望にしている家庭の中央値」です。これは強力な参考になりますが、コピーすべき正解ではありません。
例えば、明大明治の併願パターンには「2/1午前:明大付属世田谷」が登場しますが、これは「明治大学への内部進学を確保したい」という方針が前提です。同じ明大明治志望でも「方針は附属だが明治大学にこだわらない」家庭、「進学校との比較で迷っている」家庭、「神奈川住みなので法政第二を軸にしたい」家庭では、最適な2/1午前は変わります。
つまり、ベスト10併願パターンは「骨格の参考」です。骨組みのアイデアを得るために眺める ── そのうえで、自分の家庭の方針・通学条件・子どもの実力に合わせてチューニングする。これから紹介する5ステップは、そのチューニング作業の手順です。
ベスト10併願パターンを「正解」と見なすと起こること
「人気校の併願パターン=最適解」と見なしてコピーすると、方針が異なる家庭で歪みが出ます。たとえば「附属を選ばない方針」なのに明大明治志望者の併願パターン(明治系列で固める設計)をベースにすると、本人の方針と動線が逆になります。
ベスト10は「多くの家庭がこう動いている」というファクトであって「こう動くべき」というアドバイスではない、という前提で使ってください。
3. 5ステップの全体像
これから紹介する5ステップの所要時間と作業内容です。GWの1日(半日×1日 or 2時間×2日)で完了する設計です。
| ステップ | 作業内容 | 所要時間 | 進め方 |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 第1志望を1校に決め切る | 30〜45分 | 子どもが決める/親は質問役 |
| Step 2 | 2/1午前の「軸」を子どもと一緒に考える | 30〜45分 | 子ども+親で対話 |
| Step 3 | 安全校 → チャレンジ校 → 中間の順で埋める | 60〜90分 | 子ども+親で対話 |
| Step 4 | 移動・合格発表・複数回受験の整合性チェック | 30〜45分 | 親が下調べ/子どもに共有 |
| Step 5 | 家庭タイプ別のチューニング | 30〜60分 | 家族で対話 → 塾面談で確認 |
中学受験の主役は子どもです。親が決めた併願表は、6年間の学校生活でも、その先の大学受験でも、子どもの意思決定の力を弱めます。「親が併願表を決める」のではなく「子どもが自分で考え、親はそれを引き出す質問役・調べ役・整える役に徹する」── このスタンスを5ステップ全体で貫きます。
とはいえ、12歳に併願表全体を一人で組ませるのは無理があります。各ステップで子どもが判断する部分と、親が下調べ・整理する部分を明確に分ける ── それが現実的な設計です。各Step冒頭に「誰が何を考えるか」を明記しているので、迷ったらそこに戻ってください。
4. Step 1:第1志望を1校に決め切る
「行きたい順位」を最優先に、子ども自身が1校を選ぶ
この時点で大切なのは「現在地から逆算しないこと」です。「現状の偏差値からみて受かりそうな学校」ではなく、子ども自身が「行きたい順番」を決め、その1位が第1志望になります。
具体的な進め方:
・候補に上がっている学校を、子どもに「1位から順に並べ直して」と頼む。親が誘導しない。
・並んだ結果の1位が、現時点での第1志望。偏差値や倍率は無視。
・「届くかどうか」の議論はStep 2以降で行います。今は「行きたい順」だけが論点。
親の役割:「なんでその順番にしたの?」「○○中はどうして上に置いたの?」と理由を引き出す質問だけをする。意見は言わない、評価もしない。子どもが言語化した理由が、後のステップで判断軸になります。
注意:「2校で迷っている」状態で第1志望を決めずに進むと、Step 2以降で全ての判断がぶれます。子ども自身が1校に決め切ることが、たたき台の出発点です。「親が代わりに選ぶ」のは絶対NG ── 子どもが決めるからこそ、本番までの1年間に意志が宿ります。
迷っている場合は「学校を見る軸で迷ったら」のフレームを子どもと一緒に読むと整理しやすいです。
5. Step 2:2/1午前の「軸」を子どもと一緒に考える
2/1午前は併願表の「心臓部」── 親が3つのパターンを提示し、子どもが選ぶ
首都圏入試の2/1午前は最も多くの学校が試験を実施する日程で、受験生の心理状態と合格発表のタイミングが、その後5日間の判断軸になります。Step 1で決めた第1志望が2/1午前ならそこが軸。それ以外の日程の場合は、2/1午前に別の学校を置く必要があります。
ここで親が一方的に決めると、子どもが本番当日「なんで自分はこの学校を受けてるんだっけ」となります。親は3つのパターンを子どもに説明し、子どもに選んでもらうのが理想です。
第1志望が2/1午前ではない場合、子どもに提示する3パターン:
・パターンA:実力相応の進学校を置く(合格発表で勢いがつく)
・パターンB:附属系列の安全校を置く(早期に合格を1つ確保する)
・パターンC:第1志望と教育方針が近い学校を置く(連戦の流れを作る)
子どもへの問いかけの例:「2/1の朝に、どの学校を受けたら一番いい気持ちでスタートできそう?」「もし合格したら一番嬉しい学校はどれ?」「逆に、ここで不合格だったら一番落ち込みそうな学校はどれ?」── 偏差値や合格率の話より先に、子どもの感覚を聞くのがポイントです。
親の役割:選択肢を整理して提示する/子どもの判断を引き出す質問をする/決まった理由を一緒に言語化する。親が「この学校がいいよ」と誘導しないことが何より大事。誘導すると、Step 3以降の対話も子どもが受け身になります。
NGパターン:「とりあえず受けられる学校」「日程が空いているから埋める学校」を機械的に親が選ぶこと。子ども不在で決まった2/1午前は、本番当日のメンタルに必ず影響します。
6. Step 3:安全校 → チャレンジ校 → 中間の順で埋める
順番が重要 ── 安全校から決めることで「最悪のシナリオ」が消える
多くの家庭はチャレンジ校から考え始め、最後に「安全校もどこか入れておかなきゃ」と慌てて埋めます。これだと安全校が雑になり、「ここしか受からなかったら通わせたくない」と心の中で思っている学校が混じってしまうことがあります。
逆順にしましょう。「ここしか受からなくても、通わせて納得できる」と子どもと親の双方が思える学校を1〜2校、最初に決めます。これだけで「どこにも受からない」という最悪のシナリオが消え、本人の心理的余裕も生まれます。
埋める順序:
① 安全校(1〜2校):合格可能性80%以上の学校。最重要は「子ども自身が、ここに通わせて納得できるか」を確認すること。親だけが納得しても本人が嫌がっていれば、本番当日に手を抜きます。子どもに「もしここしか受からなかったら、通う?」と直接聞きましょう。
② チャレンジ校(1〜2校):第1志望が既にチャレンジ帯ならその第1志望、第1志望が実力相応帯なら別途1〜2校設定。子どもが「ここに行きたい」と感じる学校がチャレンジ校になります。
③ 中間(実力相応校)(2〜3校):合格可能性50〜70%の学校。受験本番のメインの戦場になります。
親の役割:各カテゴリの候補を3〜4校ずつ提示する/合格可能性の数字や通学時間など事実情報を整理する/決定は子どもが行う/「どうしてその学校を選ばなかったの?」という外した理由も言語化させる。
合計の目安:5〜7校。これを1月〜2/5の日程に配置します。少ないと感じるかもしれませんが、同校複数回受験を活用すれば実受験回数は7〜10回確保できます。
7. Step 4:移動・合格発表・複数回受験の整合性チェック
骨組みができたら「物理的に成立するか」を検証する
Step 1〜3で骨組みができたら、その併願表が物理的に成立するかを検証します。ここを飛ばすと、いざ12月の出願時に「あ、これ無理だ」となります。
この検証作業は親が下調べを担当します。移動時間や出願締切など、12歳が一人で正確に確認するのは難しい情報です。ただし、調べた結果は子どもに必ず共有してください。「2/1の試験が終わって2/2の朝までに○○の出願が必要だから、こういう動きになる」と説明することで、本人が試験当日の動きを自分のこととして理解できます。
親が確認する4つのチェック項目:
① 午前→午後の移動時間:午前入試と午後入試を組む場合、試験会場の移動時間(公共交通機関)が現実的か。一般的に乗り換え1回・60分以内が目安。雨天・電車遅延を考慮するとさらに余裕が必要。
② 合格発表のタイミングと次の出願締切:「2/1の合格発表 → 2/2の出願変更」「2/2夜の合格 → 2/3の判断」のように、発表時刻と次の出願・受験の判断タイミングが噛み合っているか。
③ 同校の複数回受験の有効性:同校2回・3回受験を組む場合、各回の定員・配点・優遇措置(複数回受験者への加点等)を学校公式の入試要項で確認。
④ 1月校(前受け)の位置づけ:1月の千葉・埼玉校を組み込むか、組み込むなら本気の合格目標か模試代わりか。位置づけが曖昧だと当日のメンタルに影響。
使うツール:Google マップで通学・移動時間を確認、各校公式サイトで入試要項PDFを確認、過去2年分の入試結果(実倍率)を四谷大塚や各校公式サイトで確認。
注意:このStepで「物理的に無理」と判明した組み合わせは、Step 3に戻って子どもと一緒に差し替えます。親だけで勝手に差し替えないこと ── 子どもが選んだ学校を外す判断は、必ず本人に説明と同意を取ります。
8. Step 5:家庭タイプ別のチューニング
Step 4まででスケルトン(骨組み)の併願表ができました。最後に家庭タイプ別のチューニングを行います。前回のコラムで示した3つの代替家族像(MARCH偏重を避ける家庭・附属を選ばない家庭・海外大進学家庭)に加え、典型的なMARCH志向家庭の4タイプで、骨組みの調整方法を示します。
このStepは家族での対話が中心です。「うちはどのタイプに近い?」を子どもと両親で話し合い、たたき台に手を入れていきます。決まらない部分は、5月以降の塾面談で確認するToDoリストとしてメモしておけばOKです。
典型的なMARCH志向家庭 ── 内部進学の安心を最大化
── 大学受験を回避し、6年間の学習設計を確定させる
調整ポイント:2/1午前にMARCH付属の安全校を置き、2/2に第1志望、2/3〜2/4で同校2回や系列内の別校を組む。「どこでもいいからMARCHに進める」を軸にすると、学校間の比較で迷う時間が減ります。
注意点:系列内で固めると合格バリエーションが狭くなります。万が一全敗した時の「進学校系の安全校」を1校忍ばせておくと、致命傷を避けられます。
進学校志向(MARCH偏重を避ける家庭)
── 6年後の大学進路で逆転する設計
調整ポイント:2/1午前に新興進学校(広尾学園・三田国際学園・開智日本橋など)の入試を置き、2/2に第1志望(東京農大第一等)、2/3〜2/4で同系統の中堅進学校を組む。MARCH付属を意識的に外す設計。
注意点:進学校系で固めると「大学受験を6年後に控える」前提が動きません。家族でこの選択を共有しておくこと。「先輩保護者がもっと早く知りたかったこと」には進学校系の入学後の実態も含まれています。
附属を選ばない家庭 ── 12歳時点で進路を固定しない
── 「決められない」を肯定する家族の選択
調整ポイント:すべての枠を進学校系で構成。渋谷教育幕張・市川・東京農大第一を軸に、栄東・開智学園・公文国際学園・かえつ有明など他大進学率が高い共学校を埋めていく。
注意点:進学校志向と異なるのは「大学進学先の選択肢の幅」を軸にしていること。同じ進学校でも、医学部進学が多い学校と海外大進学が多い学校では、6年後の進路が大きく違います。学校説明会で進路実績の多様性を確認することが重要。
海外大進学を見据える家庭 ── 日本の大学受験を回避する
── IB認定校・英語教育充実校で固める
調整ポイント:1月にも渋谷教育幕張の前受けを設定し、2/1午前から2/5まですべての枠を「海外大進学実績がある共学校」で埋める。広尾学園・三田国際学園・渋谷教育幕張・渋谷教育渋谷・開智日本橋など。
注意点:学費負担が大きい(海外大は年間500〜800万円規模が一般的)ため、家計の長期計画を中学受験時点で確定させる必要があります。塾は基本的に日本の大学受験前提のため、この相談は塾以外(学校説明会・海外大進学に詳しい教育相談)で深めましょう。
9. たたき台ができた後の運用
5ステップが完了したら、A4一枚で「家族で共有できる併願表たたき台」が手元にあるはずです。これは夏以降に何度も書き直す前提のドキュメント。次のタイミングで更新していきます。
・5月の塾面談:たたき台を持参して「この方向で違和感がないか」を聞く。
・5〜7月の学校説明会:たたき台に入っている学校を中心に訪問し、印象や相性を書き加える。
・第2回合不合判定テスト後(7月):偏差値の動きを反映して安全校・チャレンジ校の境界を更新。
・第3回合不合判定テスト後(9月):「持ち偏差値」を確定させて中間版に昇格。
・第4〜6回合不合(10〜12月):志望者動向の変化を踏まえて確定版に。
つまりたたき台は、これから半年間の議論の出発点です。完璧でなくていい。むしろ完璧だと修正の余地がなくなり、新しい情報が活かせなくなります。
10. GW中のチェックリスト
✅ GW中の作業チェックリスト
11. 何を持ち帰るか
🎯 スクールコンパスからのメッセージ
四谷大塚のベスト10併願パターンは、「中央値の家族」がどう動いているかのファクトです。それを我が家の併願表に変換するためには、家庭の方針を言語化し、第1志望を決め、2/1午前を軸に据え、安全校から埋め、整合性を検証し、家庭タイプ別にチューニングする ── この5ステップが必要です。
本コラムで一貫して伝えたかったのは、「中学受験の主役は子ども」ということ。親が併願表を決めれば確かに早いですが、「親が決めたから受ける」入試は、本人の力を最大化しません。そして6年後の大学受験、その先の人生でも、自分で決められない大人になってしまいます。親の役割は、選択肢を整理し、質問で考えを引き出し、事実情報を下調べし、最終的に子どもが選んだものを尊重すること ── つまりファシリテーターです。決定権は子どもにあります。
もうひとつ大切なのは、「たたき台で十分」と割り切ること。完成版を最初から目指すと、何も書けません。GW中に骨格だけ作り、夏以降に何度も書き直していく前提で進めれば、心理的負担はぐっと軽くなります。
本コラムで紹介した5ステップは、前回コラムで示した「データの読み方」と一対です。マクロ分析(前回)とミクロ実装(今回)の両方が揃って、初めて「我が家の併願戦略」が完成します。スクールコンパスは、ベスト10をなぞるだけでない、子どもが自分で選び、家庭ごとに最適化された併願設計を支えるサービスを目指します。
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