ノーベル賞2026の受賞者一覧──6つの賞を小学生にやさしく。受賞した研究は、わたしたちの毎日のどこにある?
🔬 理科にも時事があります → 理科の時事問題2027(皆既月食・はやぶさ2・H3ロケット・ノーベル賞)

🏅 ノーベル賞2026の受賞者(6つの賞)
| 賞 | 受賞者 | 発表 |
|---|---|---|
| 生理学・医学賞 | カール・ダイセロスさん(アメリカ)、ペーター・ヘーゲマンさん(ドイツ)、ゲオルク・ナーゲルさん(ドイツ) | 10月5日 |
| 物理学賞 | フランシス・ハルツェンさん(ベルギー生まれ、アメリカのウィスコンシン大学) | 10月6日 |
| 化学賞 | 硤合憲三(そあい・けんそう)さん(日本、東京理科大学名誉教授)、アンリ・カガンさん(フランス、パリ南大学) | 10月7日 |
| 文学賞 | アン・カーソンさん(カナダ、1950年トロント生まれ) | 10月8日 |
| 平和賞 | ナバネセム(ナビ)・ピレイさん(南アフリカ) | 10月9日 |
| 経済学賞 | ロバート・ホールさん(アメリカ)、マイケル・ウッドフォードさん(アメリカ、コロンビア大学) | 10月12日 |
それぞれ「何をした人か」「くらしのどこにつながるか」「理科のどの単元か」は、下の受賞の説明に。授賞式は12月10日です。出典 ノーベル財団の各賞の発表。
❓ いつ発表される?(日本時間)
2026年10月5日(月)から10月12日(月)。どれも夕方6時すぎから。
| 日 | 賞 | 日本時間(この時刻以降) |
|---|---|---|
| 10月5日(月) | 生理学・医学賞 | 18:30 |
| 10月6日(火) | 物理学賞 | 18:45 |
| 10月7日(水) | 化学賞 | 18:45 |
| 10月8日(木) | 文学賞 | 20:00 |
| 10月9日(金) | 平和賞 | 18:00 |
| 10月12日(月) | 経済学賞 | 18:45 |
出典 ノーベル財団「The 2026 Nobel Prize announcements」。スウェーデンの時刻(夏時間)に7時間を足して日本時間にしています。平和賞以外は「この時刻より早くはない」という発表で、少しおくれることがあります。授賞式は12月10日です。
① それがなかったら、わたしの1日の何がこまる?
② それは、いまどこで使われている?(家の中、学校、病院、町)
③ その人は、なぜそれを調べようと思ったんだろう? ③がいちばん大事です。ノーベル賞の研究の多くは、何十年も前の「なぜだろう」から始まっています。
6つの賞は、何をたたえる?
物理学賞
光、電気、宇宙、物のうごきなど、世界のしくみを明らかにした発見や発明をたたえます。
くらしのどこにある? 2014年、赤﨑勇さん・天野浩さん・中村修二さんが青色LEDの発明で受賞しました。青色ができたことで、明るくて電気の少ない白いLEDの明かりが作れるようになりました。家の電気、信号、スマートフォンの画面の光。まわりを見わたすと、きっと見つかります。2021年には真鍋淑郎さんが、地球の気候を計算で表す研究で受賞しています。天気予報や、地球温暖化の予測につながる研究です(→ 温暖化をふせぐ世界の会議 COP31)。
化学賞
新しい物質を作ったり、物質どうしの変化のしくみを明らかにしたりした研究をたたえます。
くらしのどこにある? 2019年、吉野彰さんがリチウムイオン電池の開発で受賞しました。スマートフォン、タブレット、ゲーム機、電気自動車。くり返し充電できる電池がなかったら、持ち運べる機械の多くはありません。2025年には北川進さんが、小さなすき間がたくさんある材料(金属有機構造体)の研究で受賞しました。すき間に気体をためられるので、砂漠の空気から水を集める、二酸化炭素を閉じこめる、といった使い方が研究されています。
生理学・医学賞
生きもののからだのしくみや、病気の治し方につながる発見をたたえます。
くらしのどこにある? 2012年、山中伸弥さんが、大人の体の細胞を、いろいろな細胞になれる状態にもどせることを発見して受賞しました(iPS細胞)。2015年には大村智さんが、寄生虫による病気に効く薬につながる研究で受賞しています。2025年には坂口志文さんが、体を守る免疫がまちがえて自分の体を攻撃しないようにするしくみの発見で受賞しました。
文学賞
心に深く残る作品を書いた作家をたたえます。
くらしのどこにある? 日本の作家では、1968年に川端康成さん、1994年に大江健三郎さんが受賞しています。発表された作家の本を1冊、図書館でさがしてみるのも、発表の日の楽しみ方です。→ ほんだなコンパス(学年ごとの本)
平和賞
国と国のあいだの争いをなくすことや、平和のためにつくした人や団体をたたえます。
くらしのどこにある? 平和賞は、個人だけでなく団体が受賞することもあります。日本からは、1974年に佐藤栄作さん、2024年に日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞しています。
経済学賞
お金や仕事、社会のしくみについての研究をたたえます。正式な名前は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」で、ノーベルの遺言にもとづく5つの賞とは別に、あとから加わりました。
くらしのどこにある? お店の値段の決まり方、なぜ国によって豊かさがちがうのか、といった研究が受賞してきました。
受賞の内容は、ノーベル財団の公式サイト(nobelprize.org)の各賞の説明による。2026年9月11日確認。
日本生まれの受賞者は、何をした人?(28件)
これまでの日本生まれの受賞者が、どんな「なぜ」を調べて、何を見つけたのかを、子どもにもわかる言葉でまとめました。🔬のついた人は、きょうのかがくの、その研究につながる日の問いを読めます。
物理学賞
湯川秀樹さん 1949年
原子のまん中(原子核)がばらばらにならないのは、まだだれも見たことのない小さなつぶ(中間子)が、つなぎとめているからだと予言しました。あとで本当に見つかりました。
日本人ではじめてのノーベル賞です。
朝永振一郎さん 1965年
光と電子がぶつかり合うときの計算で、答えが「無限大」になってしまう問題を、うまく解く方法を考えました。
目に見えないとても小さな世界のきまりを、計算で正しく表せるようにした研究です。
江崎玲於奈さん 1973年
電子が、本当ならこえられないかべを「すりぬける」ふしぎな動き(トンネル効果)を、電気の部品の中で確かめました。
このしくみを使った部品は、エサキダイオードとよばれます。
小柴昌俊さん 2002年
岐阜県の山の地下につくった大きな水のタンク(カミオカンデ)で、宇宙で星が爆発したときに飛んできた、とても小さなつぶ(ニュートリノ)をとらえました。
目で見る天文学とはちがう「ニュートリノで宇宙を見る」方法を開きました。
南部陽一郎さん(アメリカ国籍・日本生まれ) 2008年
自然のしくみが、はじめはそろっていたのに、落ち着くときに自然とかたよる(対称性の自発的な破れ)という考えを、小さなつぶの世界にもちこみました。
小林誠さん・益川敏英さん 2008年
物を作っている一番小さなつぶ(クォーク)が、少なくとも3組、6種類あると予言しました。のちにすべて見つかりました。
赤﨑勇さん・天野浩さん・中村修二さん(中村さんはアメリカ国籍) 2014年
明るく光る青色LEDを作りました。赤と緑はあったので、青ができて白いLEDの明かりが作れるようになりました。
家の明かり、信号、スマホの画面。電気を少ししか使わない明かりが、世界中に広がりました。
📘 小学校の理科では:3年「光と音の性質」
梶田隆章さん 2015年
スーパーカミオカンデで、ニュートリノが飛んでいるあいだに別の種類に変わることを見つけました。重さがゼロではない証拠です。
真鍋淑郎さん(アメリカ国籍・日本生まれ) 2021年
地球の空気と海の動きをコンピューターで計算し、二酸化炭素がふえると地球があたたまることを、早くから示しました。
天気予報や、地球温暖化の予測のもとになっています。
📘 小学校の理科では:5年「天気の変化」
化学賞
福井謙一さん 1981年
物と物が反応するとき、電子のどの部分がはたらくのかを考える方法(フロンティア軌道理論)を作りました。
新しい薬や材料を作るときの考え方のもとになっています。
野依良治さん 2001年
右手と左手のように、形はそっくりでも向きが反対の物質のうち、ほしいほうだけを作り分ける方法を見つけました。
向きがちがうと、薬のききめが変わることがあります。
田中耕一さん 2002年
たんぱく質のような大きな分子の重さを、こわさずにはかる方法を見つけました。
病気の検査や、新しい薬の研究に使われています。
下村脩さん 2008年
オワンクラゲから、緑色に光るたんぱく質(GFP)を見つけました。
細胞の中で何が起きているかを、光らせて見る研究に世界中で使われています。
鈴木章さん・根岸英一さん 2010年
炭素と炭素を、ねらったところでつなぐ方法(クロスカップリング)を作りました。
薬や、テレビの画面の材料を作るのに使われています。
吉野彰さん 2019年
くり返し充電できるリチウムイオン電池を作りました。
スマホ、タブレット、ゲーム機、電気自動車。持ち運べる機械の多くが、この電池で動いています。
📘 小学校の理科では:6年「電気の利用」
北川進さん 2025年
小さなすき間がたくさんある材料(金属有機構造体)を作りました。すき間に気体をためられます。
砂漠の空気から水を集めたり、二酸化炭素を閉じこめたりする使い方が研究されています。
生理学・医学賞
利根川進さん 1987年
体を守る「抗体」が、なぜあんなにたくさんの種類の病原体に合わせられるのかを、遺伝子のしくみから明らかにしました。
山中伸弥さん 2012年
大人の体の細胞を、いろいろな細胞になれる状態にもどせることを見つけました(iPS細胞)。
病気やけがで働かなくなった体の部分を治す研究に使われています。
📘 小学校の理科では:6年「人の体のつくりと働き」
大村智さん 2015年
土の中の小さな生きものから、寄生虫による病気に効く薬のもとを見つけました。
アフリカなどで、目が見えなくなる病気から多くの人を守っています。
大隅良典さん 2016年
細胞が、自分の中の古くなったものを分解して、作り直しに使うしくみ(オートファジー)を明らかにしました。
細胞の「リサイクル」のしくみです。
本庶佑さん 2018年
体を守る細胞にかかっている「ブレーキ」を見つけました。このブレーキを外すと、がんを攻撃する力が強くなります。
がんの新しい治し方(薬)につながりました。
坂口志文さん 2025年
体を守る免疫が、まちがえて自分の体を攻撃しないように止める細胞(制御性T細胞)を見つけました。
📘 小学校の理科では:6年「人の体のつくりと働き」
文学賞
川端康成さん 1968年
日本の人の心の動きを、美しい日本語で書いた作家です。代表作に『雪国』があります。
大江健三郎さん 1994年
人が生きることや、社会の問題を深く考えさせる小説を書いた作家です。
カズオ・イシグロさん(イギリス国籍・長崎生まれ) 2017年
記憶や、人と人とのつながりを、静かな語り口で書く作家です。
平和賞
佐藤栄作さん 1974年
日本の首相として、核兵器を「持たず、作らず、持ちこませず」という考え(非核三原則)を示しました。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協) 2024年
広島・長崎で原爆の被害にあった人たちの団体です。核兵器を二度と使ってはならないと、自分たちの体験を世界に伝えてきました。
団体が受賞することもあるのが、平和賞の特ちょうです。
ノーベル財団の公式サイト(nobelprize.org)の受賞者の説明による。国籍は受賞したときのもの。 理科の単元名は、文部科学省の小学校学習指導要領(平成29年告示)による。
2026年の受賞と、つながる理科の単元
発表のあと、その日のうちに、ノーベル財団の発表をもとに「何をした人か」「くらしのどこにつながるか」「小学校の理科のどの単元につながるか」を書きます。発表の前は、家族で分野を予想しておくと、発表の日の夕方が楽しみになります。
生理学・医学賞 10月5日(月) 18:30以降(日本時間)
受賞:カール・ダイセロスさん(アメリカ)、ペーター・ヘーゲマンさん(ドイツ)、ゲオルク・ナーゲルさん(ドイツ)
どんな研究? 水の中の小さな藻(も)が光を感じるのに使っている、光で開くたんぱく質の「とびら」を見つけました。そのとびらを脳の神経の細胞に入れ、光を当てて細胞のはたらきを「つけたり・消したり」できる方法(光遺伝学〔オプトジェネティクス〕)を作りました。
くらしのどこにある? 生きている脳の中で、どの神経が記憶や気持ち、体の動きを作っているのかを調べるのに、世界中の研究室で使われています。脳や心の病気のしくみを知る研究につながっています。
小学校の理科では:6年「人の体のつくりと働き」、3年「光と音の性質」
出典 ノーベル財団の発表(2026年10月5日)https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2026/press-release/
物理学賞 10月6日(火) 18:45以降(日本時間)
受賞:フランシス・ハルツェンさん(ベルギー生まれ、アメリカのウィスコンシン大学)
どんな研究? 宇宙からやってくるのに、ほとんど何ともぶつからずに通りぬけてしまう、とても小さなつぶ「ニュートリノ」。これをとらえるために、南極の氷を使う観測所(アイスキューブ)を考え出し、宇宙の遠くから来るエネルギーの大きなニュートリノを見つけました。物理学賞が1人だけに贈られるのは、1992年以来です。
くらしのどこにある? 光や電波では見えない宇宙のようすを、ニュートリノを使って調べる「新しい天文学」の始まりになりました。
小学校の理科では:4年「月と星」
出典 ノーベル財団の発表(2026年10月6日)https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2026/summary/
化学賞 10月7日(水) 18:45以降(日本時間)
受賞:硤合憲三(そあい・けんそう)さん(日本、東京理科大学名誉教授)、アンリ・カガンさん(フランス、パリ南大学)
どんな研究? 分子には、右手と左手のように形は同じでも重ね合わせられない「鏡うつしのペア」があるものがあります。硤合さんは、できた分子が自分と同じ形の分子を作る手伝いをして、右と左のほんの少しの差がどんどん大きくなる反応(硤合反応)を見つけました。カガンさんは、少しの差が大きな差になる「非線形効果」を見つけました。
くらしのどこにある? 薬には、右手型と左手型で体へのはたらきがちがうものがあります。片方だけを作り分けるくふうは、薬を作る化学者にとって大切な考え方になっています。生きものの体のアミノ酸がほぼ片方の形だけなのはなぜか、という100年以上のなぞを解く手がかりにもなりました。
小学校の理科では:5年「物の溶け方」、6年「水溶液の性質」
出典 ノーベル財団の発表(2026年10月7日、受賞理由「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」)https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2026/
文学賞 10月8日(木) 20:00以降(日本時間)
受賞:アン・カーソンさん(カナダ、1950年トロント生まれ)
どんな研究? 詩・エッセイ・劇・翻訳をまぜ合わせて、ジャンルの枠にとらわれない新しい形の作品を書く作家です。古代ギリシャ・ローマの詩や物語を研究する学者でもあり、何千年も前の作品と「おしゃべり」するように、いまの言葉で新しい作品を生み出したことが評価されました。
くらしのどこにある? 昔の物語や詩は、読む人が変わるたびに新しい意味をもちます。教科書の古典や昔話を「いまの自分ならどう書く?」と考えることは、カーソンさんがしてきたことと同じ方向の練習です。
出典 スウェーデン・アカデミーの発表(2026年10月8日)。ロイター・NHKの報道で確認
平和賞 10月9日(金) 18:00以降(日本時間)
受賞:ナバネセム(ナビ)・ピレイさん(南アフリカ)
どんな研究? 南アフリカの法律家で、国連の人権高等弁務官(2008〜2014年)として、世界の人々の人権を守る仕事を続けてきました。国と国のあいだの争いを、力ではなく「みんなで決めた決まり(国際法)」で解決しようとする努力がたたえられました。
くらしのどこにある? 6年生の社会で学ぶ「国際連合」と、日本国憲法の「基本的人権の尊重」は、ピレイさんの仕事とつながっています。クラスのもめごとを、声の大きい人ではなく、みんなで決めたルールで解決するのも、同じ考え方です。
出典 ノルウェー・ノーベル委員会の発表(2026年10月9日、ノーベル賞公式のSNS)。ロイター・CNN・APの報道で確認
経済学賞 10月12日(月) 18:45以降(日本時間)
受賞:ロバート・ホールさん(アメリカ)、マイケル・ウッドフォードさん(アメリカ、コロンビア大学)
どんな研究? 世の中の景気には、物がよく売れる「好景気」と、売れなくなる「不景気」の波があります。2人は、家庭や会社が「これから先どうなるか」を予想しながらお金の使い方や値段を決めることを取り入れた、経済の「模型(モデル)」を作りました。この模型は、景気の波を小さくするために、世界の中央銀行(日本では日本銀行)や政府が使っています。
くらしのどこにある? 日本銀行が金利を上げたり下げたりして、物の値段の上がりすぎや景気の落ちこみをおさえようとするときの考え方のもとになっています。物の値段がどんどん上がっている今のくらしとも、つながっています。
出典 スウェーデン王立科学アカデミーの発表(2026年10月12日)。AP・CNN・CNBCの報道で確認
発表の日時は、ノーベル財団の公表(2026-09-11確認)による。理科の単元名は、文部科学省の小学校学習指導要領(平成29年告示)の理科の内容による。
🧪 ノーベル化学賞2026 硤合憲三(そあい・けんそう)さん 東京理科大学名誉教授
2026年10月7日、ノーベル化学賞が、東京理科大学の硤合憲三名誉教授と、フランスの化学者アンリ・カガンさんに決まりました。受賞の理由は「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」です。むずかしい言葉ですが、中身は「右手と左手」の話です。
どんな研究?──「右手と左手」の分子
右手と左手は、形は同じなのに、重ねてもぴったり重なりません。鏡にうつすと、ちょうど反対の形です。分子(ものをつくっている、目に見えないとても小さなつぶ)にも、このような「右手型」と「左手型」のペアがあるものがあります。
ふしぎなのは、生きものの体です。体をつくるたんぱく質のもとになるアミノ酸は、ほとんどが片方の形(左手型)だけでできています。ところが、実験室でふつうに作ると、右手型と左手型が半分ずつできてしまいます。では、生きものはどうやって片方だけになったのか。これが、100年以上だれにも解けなかったなぞでした。
硤合さんは1995年、できた分子そのものが、自分と同じ形の分子を作る手伝い(触媒)をする反応を見つけました。最初は右と左の差がほんの少しでも、反応をくり返すうちに差がどんどん大きくなり、最後はほとんど片方の形だけになります。この反応は、名前をとって「硤合反応」とよばれています。カガンさんは、それより前に、手伝う側の右と左の差が少しでも、できる物の差はもっと大きくなることがある(非線形効果)と見つけていました。
びっくり大事実! ノーベル委員会の委員長は、2人が「生きものの体がどうして片方の形だけになれるのか」という100年以上前からのなぞに答えを出したと話し、2人の化学反応を「目を見はるような(spectacular)」とたたえました。硤合さんの反応では、分子がまるで生きもののように自分と同じものをふやし、約63万倍にふえながら、片方の形が99.5%以上にまでそろった、と報告されています。
身近に感じるには?──家で5分でできること
- 両手を合わせて、重ねてみる。手のひらを合わせるとぴったりなのに、同じ向きに重ねると親指がずれます。これが「鏡うつしのペア」です。
- 右と左があるものを、家でさがす。手ぶくろ、くつ、はさみ(右きき用・左きき用)、ねじ、まき貝のまき方、アサガオのつるのまき方。どれが「右」で、どれが「左」か、家族で数えてみましょう。
- 鏡にうつして書く。自分の名前を紙に書いて鏡にうつすと、反対の字になります。右と左を入れかえると、同じ形でも別のものになることが体でわかります。
薬にも、右手型と左手型で体へのはたらきがちがうものがあります。だから、薬を作るときは片方だけを作り分けることが大切で、ノーベル財団も2人の発見は薬を作る化学者にとって決定的だったとしています。
小学校の理科・中学受験とのつながり
小学校では5年「物の溶け方」、6年「水溶液の性質」で、ものが変わったり、溶けたりすることを学びます。「触媒」という言葉は、中学受験の理科で、過酸化水素水(オキシドール)に二酸化マンガンを入れると酸素が出る実験でよく出てきます。二酸化マンガンは自分は変わらずに反応を進めるはたらき(触媒)をします。硤合さんの反応は、その触媒が「自分と同じものをふやす」という、もう一歩先の話です。
2027年の中学入試では、理科や社会の時事問題として、ノーベル賞は毎年のように取り上げられます。時事問題2026まとめと10月の時事問題で、一問一答にして確かめられます。
おうちの方へ:今の教育にどう生かすか
1. 「なぜ?」を、すぐに答えで終わらせない。硤合さんたちの研究のはじまりは「生きものはなぜ片方の形だけなのか」という、だれでも思いつく素朴なふしぎでした。子どもの「なんで?」には、答えを言う前に「どうしてだと思う?」と1回だけ返すと、考える時間が生まれます。
2. 「少しの差が、くり返すと大きな差になる」を体験させる。硤合反応の核心は、小さな差がくり返しで大きくなることです。毎日5分の音読や計算も、続けた日数を記録すると、子ども自身が「くり返すと変わる」ことを見られます。
3. 結果がすぐ出なくても続けることを、言葉で認める。硤合さんの反応の発見は1995年、ノーベル賞はその約30年後です。「できたか」より「続けたこと」をそのまま言葉にすると、子どもは次もやってみようと思えます。
よく調べられていること
ノーベル化学賞2026は、だれが受賞した?
東京理科大学の硤合憲三名誉教授と、フランスのアンリ・カガンさんです(2026年10月7日発表)。
硤合反応(不斉自己触媒反応)とは?わかりやすく
できた分子が、自分と同じ形の分子を作る手伝いをする反応です。右手型と左手型の差がはじめは小さくても、くり返すうちに大きくなり、ほとんど片方だけになります。
「不斉(ふせい)」「キラル」とは?小学生にもわかる言い方は?
右手と左手のように、鏡にうつすと反対の形になり、重ねてもぴったり重ならない性質のことです。そのような分子を「キラルな分子」とよびます。
この研究は何の役に立つ?
薬には右手型と左手型ではたらきがちがうものがあり、片方だけを作り分ける考え方に役立っています。生きものの体がなぜ片方の形だけでできているのか、という生命の起源のなぞを解く手がかりにもなっています。
東京理科大学のノーベル賞は?
硤合さんは東京理科大学の名誉教授です。2015年に生理学・医学賞を受けた大村智さんは、東京理科大学の大学院を修了しています。
日本人のノーベル賞受賞者の一覧は?
このページの上の「日本の受賞者」の欄に、賞ごとにまとめています。
子どもの「なんで?」にどう付き合うか迷ったら、子育て相談室でも一緒に考えます。毎日1つの理科のふしぎはきょうのかがくで。
出典:ノーベル財団の発表(2026年10月7日、受賞理由・ノーベル化学委員会委員長ハイナー・リンケ氏の言葉)、AP通信の報道(2026年10月7日)、東レ科学振興会「第16回東レ科学技術賞 業績の大要(硤合憲三)」、北里大学「大村智博士 プロフィール」。日本語は編集部の訳です。
2026年のノーベル賞の発表の前に、話題になっていた日本の研究者
2026年のノーベル賞で、日本人の受賞の可能性が話題になっている研究者はいますか?
ノーベル賞は、受賞者が発表されるまで候補の名前が公開されません(推薦の記録は50年間ひみつ)。そこで毎年、「ノーベル賞の前ぶれ」と言われるほかの賞を受けた人が話題になります。2026年に、そうした賞を受けた日本の研究者は次の人たちです。予想ではなく、すでに決まった受賞の事実です。
柳沢正史さん(筑波大学)──「なぜ眠くなるのか」の研究
2026年9月、アメリカでもっとも権威のある医学の賞の一つ、ラスカー賞(基礎医学研究賞)に選ばれました。1998年に、脳の中で目ざめた状態を保つはたらきをする物質「オレキシン」を見つけ、これが足りないと昼間に強い眠気におそわれる病気(ナルコレプシー)になることを明らかにしました。この発見は、眠れない人のための薬の開発につながっています。ラスカー賞は、1945年にできてからの受賞者360人のうち101人が、のちにノーベル賞を受けています。
家で話せること 柳沢さんは会見で、オレキシンの研究は、はじめから目的を決めずに「何かおもしろいことが起こりそう」という宝さがしから始まったと話しています。そして、人はなぜ眠らなければいけないのかは、まだだれにも解けていない謎だそうです。眠ることは、謎があるほど大事なしくみです。→ 小学生は何時間眠ればいい? 足りないと何が起きる?
中外製薬の研究者3人──血友病の薬
同じ2026年のラスカー賞(臨床医学研究賞)に、血が止まりにくい病気「血友病」の新しい薬を生み出した中外製薬の研究者3人が選ばれました。日本人4人がそろってラスカー賞を受けたことになります。
安達千波矢さん(九州大学)──光る有機の材料
論文がどれだけ引用されたかをもとに選ばれる「クラリベイト引用栄誉賞」(2026年、物理学の分野)に選ばれました。スマートフォンの画面などに使われる有機EL(有機発光ダイオード)を、もっと効率よく光らせる研究です。この賞に選ばれた人のうち、のちにノーベル賞を受けた人も少なくありません。
受賞が決まった人がいれば、このページの「2026年の受賞者」の欄に、発表のあとすぐ書き足します。
ラスカー賞は日本医療研究開発機構(AMED)のお知らせ(2026年9月11日)と報道(2026年9月9〜14日)、クラリベイト引用栄誉賞は報道(2026年9月)による。ノーベル賞の推薦の記録が50年間公開されないことはノーベル財団の説明による。2026年10月5日確認。
受賞者は、子どものころどう過ごした?──日本の受賞者6人が語った「はじまり」
ノーベル賞を受けた人は、受賞のときに自分の生い立ちを書いたり、インタビューで子どものころを話したりしていて、ノーベル財団の公式サイトにのっています。日本の受賞者6人分を読むと、「天才だったから」とは書かれていません。出てくるのは、そばにいた大人が手渡した1冊の本、外で遊んで見つけた「なぜ」、親が働く姿です。同じことをすれば受賞できる、という話ではありません。ただ、家でできることのヒントは、はっきり書かれています。
家でできることを、6人の話から4つだけ
- 「なぜ」に答える本を、1冊だけ手渡す。吉野氏は先生から、大隅氏は兄から本を受け取り、坂口氏の父は本を読んで聞かせました。たくさん買うより、子どもがいま気にしていることに合わせた1冊です。→ ほんだなコンパス:科学の本(学年ごと)
- 好きになったものを、続けられる形にする。大隅氏が書いた「育てる人がいなかった」は、親にできることそのものです。虫・星・機械の観察を、日付と1行で残していくと、それが自由研究の種になります。→ きょうのかがく(毎日1つの理科のふしぎ)
- 親の仕事や好きなことを、隠さず見せる。山中氏の父は、教えたのではなく、働く姿を見せました。→ しごと図鑑
- 「何のために勉強するのか」を、人の役に立つ話で伝える。天野氏は、テストのための勉強には理由を見つけられず、「だれかの暮らしを豊かにするため」と知ったときに夢中になりました。受賞した研究が家のどこにあるかを一緒にさがすと、その話がしやすくなります(自由研究・調べ学習にするなら)。
出典 ノーベル財団公式サイトの各受賞者の「Biographical」(吉野彰氏・大隅良典氏・山中伸弥氏・天野浩氏は本人の執筆、大村智氏は財団掲載の伝記)、ノーベル財団公式サイト「Transcript from an interview with Akira Yoshino」「Transcript from an interview with Shimon Sakaguchi」(2025年12月6日)。2026年10月5日確認。日本語は編集部の訳です。
理科のふしぎを毎日1つ読むなら きょうのかがく へ。
自由研究・調べ学習にするなら
よくある質問
Q. ノーベル賞2026は、いつ発表されますか?
ノーベル財団によると、2026年10月5日(月)から10月12日(月)に発表されます。日本時間では、生理学・医学賞が10月5日18時30分以降、物理学賞が6日18時45分以降、化学賞が7日18時45分以降、文学賞が8日20時以降、平和賞が9日18時、経済学賞が12日18時45分以降です。発表はノーベル賞の公式サイトで生中継されます。
Q. 授賞式はいつですか?
2026年12月10日です。ノーベル財団によると、平和賞以外はスウェーデンのストックホルム、平和賞はノルウェーのオスロで授賞式が行われます。
Q. 去年(2025年)の日本人の受賞は?
生理学・医学賞を坂口志文さんが、ほかの2人とともに受賞しました。体を守る免疫が、まちがえて自分の体を攻撃しないようにするしくみの発見です。化学賞は北川進さんが、ほかの2人とともに受賞しました。小さなすき間がたくさんある材料(金属有機構造体)を作った研究で、砂漠の空気から水を集めたり、二酸化炭素を閉じこめたりするのに使われています。
Q. ノーベル賞を受けた人は、子どものころどう過ごしていましたか?
日本の受賞者がノーベル財団の公式サイトで語った生い立ちでは、2025年の坂口志文氏は琵琶湖の近くで日がしずむまで外で遊び、高校の先生だった父が本を読んで聞かせてくれたそうです。吉野彰氏は小学4年生のときに担任の先生にすすめられた『ロウソクの科学』で化学に夢中になり、大隅良典氏は自然の中で虫集めや星をながめて過ごし、兄が持ち帰る科学の本で世界を広げました。山中伸弥氏は工場を営む父の働く姿から、ものを作る面白さを学んだと書いています。天野浩氏は、小中学校では勉強が好きではなく、大学で「工学は人の暮らしを豊かにするため」と聞いて勉強の意味を見つけました。 くわしく →
Q. ノーベル賞は、どうやって受賞者が決まるのですか?
ノーベル財団によると、推薦された候補を5人から10人の委員会が専門家の意見を聞きながら何か月もかけて検討し、賞を選ぶ機関が最後に投票で決めます。
📰 小学生しんぶん 10月16日号から ── 6賞がそろって
10月16日号では、12日の経済学賞(ロバート・ホールさん、マイケル・ウッドフォードさん)で6賞がそろったことを全学年で取り上げました。1・2年生版は景気の「波」の絵、3・4年生版は中央銀行の金利とのつながりと、日銀の利上げで住宅ローン金利が上がっている話、5・6年生版は平和賞のピレイさん(元国連人権高等弁務官)と、平和賞だけがオスロで授賞式を行うことを入試の視点で書きました。化学賞の硤合さんのテーマ「右手型・左手型」をAIで見分ける大阪大学などの新しい研究(10月13日)も、全学年で続報として紹介しています。
📰 小学生しんぶん 10月9日号から ── 受賞が決まって
10月9日号では全学年で、化学賞の硤合憲三(そあい・けんそう)さんの研究を「右手と左手」から取り上げました。1・2年生版は右手と左手は重ねてもぴったり重ならないことと手ぶくろの裏返し実験、3・4年生版はわずかな差が「自分を増やす」ことで大きくなるしくみを2倍ずつ増える計算で、5・6年生版は触媒の定義と日本人のノーベル化学賞の年表、ニュートリノの研究(小柴昌俊さん・梶田隆章さん)との比較を、入試の視点で書きました。
📰 小学生しんぶん 10月2日号から ── 発表の前に
10月2日号では全学年で、5日から始まる発表の日程と、日本の受賞が3年連続になるかを取り上げました。1・2年生版と3・4年生版は「それがなかったら、わたしの1日の何が困る?」という問いで、リチウムイオン電池や青色LEDの研究とくらしをつなげています。
5・6年生版は、ノーベルの遺言にもとづく5つの賞とは別に経済学賞があとから加わったことを、知識問題として出やすい点として押さえました。6つの賞の受賞者の研究の中身と、小学校の理科・社会の単元とのつながりは、このページと10月の時事問題まとめに書いています。